ARTISTS

イスラム教社会におけるマイノリティとアートワークについて サマック・コーセム

Samak Kosem
Thai

サマック・コーセムはチェンマイ大学で文化人類学の理学士号と修士号を取得しました。視覚人類学の分野で活動する彼は、タイ南部のディープサウスにおけるムスリム社会におけるクイア※について作品を制作し発表するなど、現在タイのコンテンポラリーアート界で最も注目されているアーティストのひとりです。イスラム教徒コミュニティにとってLGBTQとはどのような存在であるのか、また彼のアートワークにどのように関わっているのでしょうか。

LGBTQはイスラム教徒(イスラムコミュニティの人々)にとってどのように認識されているのか

イスラム教徒のコミュニティにおけるLGBTQは、デリケートな問題であり宗教的な立場から明確にすることができず、まだ議論の中にある段階といえます。教義において、男は男であり、女は女です。
イスラム教徒にも多くのクイアがいます。同性愛者の祈りは神に届かないだろうと囁かれても、彼らはイスラム教徒として祈りを捧げます。彼らはクイアとしての自分と、信仰の両方を保ちたいと考えているのです。

※クイア・・・元々は「不思議な」「風変わりな」「奇妙な」などを表す言葉であり、同性愛者への侮蔑語であったが、1990年代以降は性的少数者全体を包括する用語として肯定的な意味で使われている。

タイ深南部(ディープサウス)はクイアにとってどのような地域性か

サマックの現在の拠点であるチェンマイでは、クイアやLGBTQ問題について発言したり表現したりすることはオープンです。バンコクはもちろん、その他の地域でもマイノリティが発言できる場は多くなっていますが、彼の出身地であるタイ深南部では、他の地域で見かける女装した男性、いわゆるレディーボーイについて、ポネ(Pondan)という蔑称で呼びます。イスラム教徒の多いディープサウスでクイアは非常に目立つ存在です。そして特に男性同士の同性愛はイスラムの教義においてタブー視されます。

また、芸術においてもタイ深南部では美術学科というものがありません。学校での学びは、実用性のあることでなくてはならないのです。宗教的に裸婦を描くなどはもってのほかというわけです。彼がアートについて本格的に学ぶことができたのは地元を出てからのことです。

アイデンティティ、信仰、作品はどのように調和されるか

自分らしくいられるということ。彼にとって、これが最も重要です。
- 宗教
- 性
- ボーダー
これらのテーマをフォーカスし、コンセプトをかたちにしていきます。彼は自らのアートワークによって進行形で答えを探しているのです。

今後の活動について

「社会について考え、人々とコミュニケートして作品を制作していきたいと考えています。

メッセージも全てを明確にするのではなく、音楽と映像、ドキュメンタリー、写真など複数の表現方法を用いて試したいことが多くあります。

そしてプロジェクトとして一箇所に留まり、作品を制作することに興味があります。場所としてはやはりテーマにあげている国境(ボーダー)です。ボーダーは様々な人々や文化が行き交い、新たな波を孕んだ場所です。外国では台湾やフィリピンのボーダーなどでアートによるコミュニケーションができたらいいですね。」

作家プロフィール

Samak Kosem
1984生 タイ

Education
チェンマイ大学 文化人類学の理学士号と芸術修士号を取得

文化人類学の分野で活動しており、タイ南部の最近の研究では、イスラム文化と非人間関係に焦点を当てている。
彼の作品は、彼の研究からの部分的な真実/事実を反映することができる彼の方法論の1つとして、写真と視覚民族誌を通して描かれている。
地元および地域におけるジェンダーの視点の限界を理解するために、イスラムの同性愛に焦点を当てた研究に興味を持っている。
彼の作品の多くが本や学術雑誌に掲載されている。


文責: neu