Exhibitions

アートとメディアが平和と社会を問う  フェイスブックが支援した美術展「ザガーアラクトン」

The Secretariat

Myanmar

Nov 02 - Nov 17, 2019

ミャンマーでは、2011年の民政移管以降に携帯電話が急速に普及し、市民が一気にインターネットにアクセスするようになった。しかしインターネットに不慣れな市民のメディアリテラシーは低く、フェイスブックの書き込みをそのまま信じてしまったり、インターネットが民族間の対立をあおる原因になったりと様々な問題が起こっている。こうした状況に問題意識を持つミャンマーのアーティストらが集い、美術展「ザガーアラクトン(麗しき言葉の癒し)」が開催された。

ヤンゴンの歴史的建造物で開催

ミャンマー独立の英雄アウンサン将軍が暗殺された場所として有名な歴史的建造物「セクレタリアート」で開催された美術展は、美術家ネットワークの「ピンサラサ」などが主催、フェイスブックが協賛している。インスタレーションや絵画、ダンスやライブ演奏、ショートフィルムなどを組み合わせた多様な作品を集めている。

 会場に入ってまず目につくのは、風船を繋ぎ合わせたような形の人形が並ぶインスタレーション「風船のような空気の言葉」(モーサ氏作)だ。大小さまざまな人形に来場者がコメントを書き込む仕掛けだ。ヘイトスピーチやフェイクニュースなどの空気のようにサイバー空間を飛び交う言葉に対して、あなたはどう考えるのか、と観衆に問いかけている。人形には「お互い戦いはよそう」などというメッセージが書き込まれていた。

  • 人形には多数の人がメッセージを書き込んだ

  • インスタレーション「風船のような空気の言葉」

写真やアニメで中傷を表現

ネットへの書き込みに警鐘を鳴らしたのは、写真家のサイティンリンテ氏のショートフィルムと写真の展示だ。人間の服に次々と誹謗中傷の言葉が張り付けられてゆく様子を、写真によるアニメーションで表現している。ネット空間を埋め尽くす中傷で、人が傷つくことを明確に可視化している。

  • ネットでの中傷に苦しむ様子を写真で表現

一方、ヘイトスピーチに打ち勝つ平和への可能性を示したのが、写真家のクンラ氏の「平和の家」だ。内戦が続くカチン州で、少数民族武装勢力とミャンマー国軍の双方の兵士が利用できる避難所となっている小屋を追ったドキュメンタリーを、小屋を模した建物の中で上映した。また今回のイベントではメディアリテラシーを高めるために、イラストレーターのテーウー氏と詩人のネイミョーセル氏による童話をパロディにしたコミカルな漫画も展示。また、自分たちのアイデンティティを見つめ、様々な民族を尊重することを表現したタディーダ氏の一連の写真も登場している。

  • 小屋の中で短編映画を上映し、兵士の平和への思いを示した

  • パロディ漫画でネットリテラシーを訴える

ミャンマーでは2017年以降、ラカイン州で武力衝突が激化。70万人を超えるイスラム系住民のロヒンギャが難民として隣国バングラデシュに逃れたほか、仏教系少数民族ラカイン族の武装組織とミャンマー国軍との内戦が市街地にも及び、深刻さを増している。そして、フェイスブック内でのヘイトスピーチがこうした民族対立をあおっているとの指摘がある。フェイスブックはこうした事態を受け、ヘイトスピーチを行っていると認定したアカウントを閉鎖する措置をとったが、対応が後手に回ったとの批判も受けている。

  • バートワズノットヒア氏の作品は自撮りしてネットに投稿するのに人気

  • 若者に人気のダンサー、ジミー・ココ氏も参加

そんなフェイスブックが支援するイベントだが、歴史的建造物で開催されていること、イラストレーターのバートワズノットヒア氏、ダンサーのジミー・ココ氏ら若手の人気アーティストを集めていることなどから、多数の観客が美術展を訪れていた。観客はスマートフォンで次々と撮影を行っていた。この観客のほとんどは、フェイスブックに写真を投稿するに違いない。こうした現実社会のイベントがサイバー空間で拡散され、作品が表現したメッセージは瞬く間に広がっていくのだろう。新しい美術展の役割が、ヤンゴンで示されたと言えそうだ。

Information

ザガーアラクトン

開催期間
2019年11月2日〜17日
会 場
The Secretariat
Thein Phyu Road, Yangon (Rangoon), Myanmar
電 話
+95-9-456883044
URL
http://www.thesecretariat.com/

文責: Yuki Kitazumi